サクソフォンのリード、「髪の毛1本分下げる」って本当?
サクソフォンを始めたばかりの頃、先輩や先生から「リードはマウスピースの先端から、髪の毛1本分くらい下げて付けるんだよ」と教わったことはありませんか? おそらく、日本の吹奏楽部などではとてもよく聞く教え方だと思います。
でも、私はその教え方にちょっと「待った」をかけたいです。
本当にそれが「全員にとっての正解」なのでしょうか?
私は20年以上サクソフォンの演奏やレッスンに携わってきましたが、実はこの「髪の毛1本分下げる」という付け方が、かえってサクソフォンの音出しを難しくしてしまっているケースをたくさん見てきました。 今回は、リードをずらすと物理的にどんなことが起きているのか、経験を交えながら少しゆるく解説してみたいと思います。

そもそも、なぜ「髪の毛1本分下げる」と言われているの?
この教え方の由来には諸説あります。 一説によると、英語圏で「ほんの僅かに」という意味で「髪の毛1本分」という表現が使われることがあり、それがそのまま日本のサクソフォン指導に定着したとも言われています。
また、ポピュラー音楽系のプレイヤーが「風が通り抜けるような、少しハスキーで渋い音(サブトーンなど)」を出したいときに、あえてリードを下げるセッティングを好むことも関係しているかもしれません。 つまり、「ある特定の音を出したい人」や「昔の慣用句」から来ている可能性があり、決して"絶対ルール"というわけでもないのです。
リードを「下げる」とどうなる?
実際にリードをマウスピース側(下方向)にずらしてセッティングすると、何が起こるのでしょうか。
- リードの薄くて柔らかい部分をくわえることになる
- リードの振動面積が減る→音が弱くなる
- リードを押さえるチカラが少なくて済む
- (逆に)リードを押さえるチカラを少し増やしただけで、ペタンと塞がって息の通り道がなくなりやすい
- リードとマウスピースの間に隙間ができやすく、「シュー」という息の音が混じりやすい
「少ない息でも鳴りやすい」とも言えますが、実は音が詰まってしまったり、音にノイズが混じりやすくなることも多いのです。透明度の高いクリアな音や厚みのある音を出したい人には、あまり向いていないセッティングと言えます。また、演奏方法としてつい力んでしまいやすい場合にも不向きかもしれません。
もちろん、あえてノイズを混ぜて渋いハスキーな音を出したい場合には挑戦してみる価値はあります!
また、硬くて扱いにくいリードに苦労している場合においても、薄くて柔らかいところを押さえて振動させるエリアを狭くすることで鳴らしやすい状況を作り出すことができるかもしれません。

逆にリードが「はみ出す」とどうなる?
では反対に、リードを演奏者側(上方向)にずらして、マウスピースの先端より少しはみ出させてみたらどうなるでしょうか。
- リードの少し厚くて硬い部分を振動させることになる
- リードの振動エリアが増えて、芯のある太くて大きな音が出やすくなる
- リードを押さえるためにもっと強いチカラが必要になる
- 音を鳴らす(リードを振動させる)ために、よりしっかりとした息の圧力が必要になる
実は私の経験上、リードを下げるよりも「ほんの少しだけはみ出させてセッティングする」ことのほうが、頻度としては多いくらいです。少しへたってきた(柔らかくなりすぎた)リードを復活させるときにも、この付け方はよく使われます。

基本は「ぴったり中央揃え」!自由に選んでみよう
サクソフォンの音が出る最低条件は、
「リードとマウスピースの隙間に空気を流し続けること」と「リードが適度に押し上げられて振動すること」
です。
どれが良い・悪いということではなく、出したい音の種類や、その日使っているリードの性格によって自由に選べば良いと私は考えています。1つのやり方だけが絶対に正しいと思い込んでしまうのは、少しもったいない(危険な)ことかもしれません。
リードの付け方に限らず、いろいろ試して実験することで上達のヒントが見つかります。
ちなみに私の普段のレッスンでも、まずは「マウスピースとリードの先端のカーブをぴったりと揃え、左右のずれもない中央揃え」を基本として指導しています。そこから、今日のリードの調子や出したい音色に合わせて、自分なりのセッティングを探ってみてください。

【結び】
調子が悪くなって「もう捨てようかな…」と思っているリードを、道具を使わずに少しだけ復活させる裏技(流体力学のちょっとしたお話)についても個人的な見解がありますので、折を見て記事を書いてみようと思います。お楽しみに!


